はじめに
ピチットシートなどの脱水シートをご存じでしょうか。
食材の味を変えることなく、水分だけを抜き取るシートでパンチェッタや干物を作るときによく使われます。これは、浸透圧の高い液体を半透膜で閉じ込めているため、接触部から水のみが移動するためです。
手軽に使えればいいのですが一枚あたり50円以上するので、使うのをためらってしまいがちです。そこで今回はこれを自作してみようかなと思います。まずは原理原則の浸透圧について解説します。
浸透圧について
浸透圧は、水分子だけが通ることのできる膜を介して見られる現象です。この膜は、半透膜と呼ばれていて、一般的には直径1 nm前後の穴が開いています。水分子の大きさはおよそ0.3 nm(推算)なので水分子はこの膜を通ることができます。
次の図では、濃度の異なる水溶液を半透膜で仕切った模式図を表しています。半透膜は、濃度の異なる溶液を接触させると、水を移動させて濃度を同じに保とうとし、図に示すように水の高さが変わります。この水面の差が浸透圧になります。
半透膜について
市販の脱水シートは、メーカーHPによるとポリビニルアルコール製とされています。ポリビニルアルコール製のフイルムは、企業向けに販売されているものの、個人への販売は行われていません。たぶん。
一般家庭で簡単に手に入り安価な半透膜はセロファン紙になります。
燻製用のスモーク用セロファンが販売されているのでこいつを使ってみます。大きさは45cm×50cmで食材を包むのには十分でしょう。
ときどき売り切れになっていることがあります。売り切れの際はこちらのセロファンも使用できるのでお試し下しさい。
どちらのセロファンでもパンチェッタや生ハムを作ることができたので検討をされてるなら手にとってみてください。
溶質の選択
水によく溶けて濃度の高い液体を作れる溶質は、身近なものだと砂糖と塩です。
塩は、分子量が小さく、水溶液になる際にイオン化するため、非常に高い浸透圧が期待できます。しかし、水和イオン半径がNa:0.36 nm、Cl:0.33 nmと孔径より小さいことから食材側への透過が懸念されます。
一方砂糖の成分のスクロースは直径1.1 nm(推算)なので半透膜の孔径より大きいと言えます。そのため砂糖が身近に手に入るものの中で最良のものと考えられます。
パンチェッタの作り方
豚バラ肉 適量
塩 肉に対して5%
香辛料 好みの物(黒コショウやローズマリー)
セロファン1枚
砂糖 適量
調理工程は簡単で肉に味付けしてからセロファンで包み、砂糖を引いたラップで包むといった感じです。必要に応じて2、3回砂糖を交換しましょう。
まず、豚バラ肉に塩と香辛料をすり込みます。これはブラックペッパーとローズマリーです。
サランラップを敷き、その上に砂糖を敷き詰めます。このとき少量の水を霧吹きでかけてぬらしておくと作業がしやすいです。濡れると微生物の心配をされる方がいますが、浸透圧が高すぎて繁殖できないので問題ありません。
セロファンで包んだ肉をおき包んでいきます。
こんな感じでつつんだら冷蔵庫で寝かせます。そのまま冷蔵庫に入れると抜けた水分で砂糖が溶けてべちゃべっちゃになるのでジップロックやビニル袋に入れてから寝かせましょう。
2日後、セロファン、砂糖の交換をしたときの様子です。いい色になってきました。
10日後に再度交換して3週間経過したものがこちらです。
表面に見える白い粉はアミノ酸です。肉はモッチリした感じでどうやらうまく作れました。
ピチットシートの代替へなりうるのか
結論から言うと、なりえません。コスト的に。
なんだかんだ1枚当たりのセロファンと砂糖代で50円くらいになるので、これならピチットシートを買ったほうがいいです。
セロファンはパリパリで砂糖を均一にして巻くのが難しく、これを毎回やるのはマゾい。刺身の冊を包んでタッパーか何かに入れて砂糖をまぶす、といった使い方ならいいかもしれません。
おわりに
ピチットシートのような脱水シートの半透膜はセロファンで代替可能です。その際は砂糖や水飴を使うことで脱水できます。
ただし、ピチットシートよりもちょっと安いくらいなので興味本位以外での使用はオススメできません。それでもやってみたいよって方は作ってみましょう。作るのは楽しかったです。
スモーク用セロファンは、ときどき売り切れになっていることがあります。売り切れの際はこちらのセロファンも使用できるのでお試し下しさい。
参考文献
EICA: 15 (4) 44-47
J.N. Israelachvili, “Intermolecular and Surface Forces”
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