梅酒に起こる化学変化と製法による味の違い

内部で起こっている化学反応や果実に含まれる成分の抽出方法、シワシワにならない梅の漬け方など学術的な文献をまとめて一つの読み物にしてみます。

目次

はじめに

初夏になると梅が市場に出回り、梅シロップや梅酒を漬けこむ方も多いと思います。特に梅酒の漬け方は人とによって違ったり、オカルト的な解説がされることが多くレシピサイトが参考にならないので梅酒作りの文献を調べた結果をまとめます。

梅酒の琥珀色の正体

梅酒は、氷砂糖と焼酎で漬けます。このとき、瓶の中でどのような化学変化が起こっているのでしょうか。

まず、梅に含まれる有機酸やポリフェノールなどの成分が焼酎に溶け込みます。そしてゆっくり氷砂糖が解けます。

氷砂糖はショ糖(スクロース)と呼ばれる糖でブドウ糖(グルコース)と果糖(フルクトース)が結合した物です。この結合は酸性で切れるのでショ糖はブドウ糖と果糖に分解されます。また、梅に含まれる酵素の影響も加わり、分解は加速されます。

ポリフェノールとフルクトースが酸性条件におかれると、ハイドロキシメチルフルフラールが出現します。この物質は梅酒の琥珀色を示す物質になります。

梅に含まれるアミノ酸やタンパク質とショ糖の分解物がメイラード反応を起こしているのかと思ったけど異なる反応によって琥珀色を示すようです。

梅から溶け出す成分

梅酒から溶け出す成分は有機酸と微量のアルデヒド類、エステル類、アセテール類からなり、使用する梅の熟し方や破砕の有無によって変わります。有機酸は、そのほとんどがクエン酸とリンゴ酸からなり、微量の酢酸、乳酸、シュウ酸、フマル酸が含まれます。また、10%の未知の有機酸も含まれています。

漬ける方法の違いによらず梅酒に溶けだす物質の組成は同じです。しかし、その抽出量が異なります。実を破砕して漬けこんだものが最も抽出量が多く、次に焼酎に砂糖を溶解させたもの、一番抽出量が少ないのは焼酎に漬けこみ後、糖液に漬けこんで2段抽出を行ったものです。
熟した梅を使うと、有機酸とアルデヒド類の抽出量が増加します。ただし、抽出量が多いから美味しい梅酒になるというわけではありません。

熟成させることで豊富に存在するエタノールと反応してアルデヒド類、エステル類、アセテール類の種類が増加してマイルドな味わいになります。これが梅酒のおいしさにつながります。

梅酒の飲み頃と熟成の目安

梅酒の飲み頃は、ショ糖の転化が終わる3-4ヶ月後になります。この頃梅酒は青梅のフレッシュな香りがするものになります。そして更に熟成させることで梅酒の味は変化してより深みをましていきます。

熟成は発酵食品と異なり微生物や酵素によるものではありません。梅酒中のエタノールやアルデヒド、アミノ酸を消費してマイルドな味わいに変化します。

青梅のさわやかな香りを楽しみたい場合は長期の熟成は向きません。また、熟成したものを飲みたい場合は熟成に適した仕込みをするとよりおいしい梅酒を作ることができます。

好みの問題はありますが、2-3年熟成させた梅酒が最も美味しいと言われており熟成すればするほど美味しいと言ったものではありません。

製造法の味と熟成による変化

○通常法(ホワイトリカー、氷砂糖、梅を同時に封入)
一般的な家庭での製法によるものです。熟成しても可もなく不可もなく特徴のない梅酒になります。

○二段仕込み(ホワイトリカーで抽出後、梅を取り出して糖液で抽出、混合)
少し手間のかかる製法になります。梅果実からの酸の抽出量が抑えられるので酸味の苦手な方には特にオススメな製法になります。尖った味はなく非常に温和ですが、香りが最もよい製法になります。熟成1-2年が最もおいしくなります。

○破砕法(種まで砕く)
梅の半透膜が失われることに加え種に抽出液が接触するため梅の成分が最も溶け出します。特に抗酸化物質のポリフェノール類を抽出したい場合はこの方法が最適でしょう。熟成が短いと荒っぽい味と種の臭みがしますが、長期熟成することでマイルドに変化します。2年以上熟成させるととても美味しく仕上がります。長期熟成でおいしい梅酒を作るのでしたらこの方法がベストでしょう。

○熟した梅を用いる
熟した梅や追熟をした黄色い梅を用います。熟した梅を用いた梅酒の特徴は、梅の香りが強い美味しいお酒に仕上がりお菓子作りや調味液に最適です。ただし、酸味も強くなりますので酸っぱい梅酒が苦手な方にはオススメできません。熟成しても梅の香りが残り美味しい梅酒になります。

○凍結法
凍結によって細胞の半透性が失われるので梅成分の抽出が容易です。また、種に梅酒が接触しやすいことから種に含まれる抗酸化物質のポリフェノール類の抽出ができます。梅のこうあ部(枝と果実がくっついている部分)に穴をあけて冷凍して漬けることで梅がシワシワになるのを防ぐことができます。梅シロップも凍結させるとシワシワになりません。この方法は別記事にもしているのでこちらも合わせて御覧ください。

関連記事:漬けた梅にシワのよらない前処理法

○砂糖を減らす製法
未処理の梅を漬ける場合は梅1kgに対して0.6kgまで減らしても梅成分の溶出量は変わりません。冷凍した梅を使う場合は梅1kgに対して0.4kgまで減らすことができます。砂糖の使用量を減らしたい方はご検討ください。

○梅の取り出しの有無と時期
梅の成分は漬け始めて1-2ヵ月で溶け終わります。果肉をつけておいたほうが見た目はよく有効成分が長期にわたって梅酒に溶けだすように思えます。しかし、種から余計な濁質や薬のような異臭が出て梅酒の味が低下します。なので長くても2ヵ月で取り出す必要があります。

○漬けるアルコールの違い
完全に好みです。法律のからみで度数の低い酒はNGとなってますが、作れないことはありません。辛口淡麗の日本酒で漬けたらフルーティーな果実酒にしあがります。ただし、腐敗のリスクが伴います。あんまり香りの強い個性のある酒で漬けると梅の香りと喧嘩してしまいます。なので癖のないホワイトリカーで梅の香りを楽しむってのが一番いいのかなと思います。

簡単で美味しい追熟梅酒の作り方

酸味の少ない香り豊かな梅酒を作ります。

梅は追熟することでモモに近い香りがすることが知られています。追熟は20℃で4日、30℃で3日が良いとされ、追熟後に有機酸の含有量が減ります。

関連記事:梅酒に使う梅の前処理として「追熟」を行う

また、凍結させることで梅エキスの抽出が早まり、梅にシワが寄らずに作ることが可能です。

○材料
青梅       1kg
砂糖       0.4−1kg
ホワイトリカー  1.8L
砂糖は0.4-1kgの範囲で変え糖分控えめに作っても大丈夫です。

○作り方

①前処理
ビニル袋に入れて4日間追熟させます。4日後、追熟を終えた梅を冷凍します。冷凍させることで半透膜の半透性が失われ梅成分がよく溶け出します。モモもようなフルーティな香りが移ります。

梅はちょっと色が変わりかけた半熟くらの梅が一番香りが良いです。色々な香り成分を入れたい場合、追熟させる梅は半分にしましょう。

②仕込み
梅を入れその上に氷砂糖を入れます。そしてホワイトリカーを入れます。1日1、2回軽く回転させて撹拌させます。早く溶けても梅酒の品質に影響はありません。

③実の取り出し
漬け始めてから1-2か月後、梅を取り出します。これ以上つけると濁質や臭みの原因となります。熟成は梅に含まれていた成分、糖分、アルコールにって進むので必要以上に果肉を浸け置く必要はありません。

④熟成
4ヶ月-3年の熟成をさせて完成になります。
さわやかな香りやフレッシュなフルーティな香りを楽しみたい場合は、熟成期間をあまりとらずにさっさと飲みましょう。マイルドな味わいを楽しみたい場合は3年の熟成で十分です。この製法なら徐々に熟成して味が変化していく様子が楽しめます。

関連記事:「追熟梅酒」を作る

梅酒の保存にはこちらの瓶を使用しています。日本製で品質の高いガラス瓶なのでオススメ。

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おわりに

梅酒に係る化学変化や製法による品質の変化についてまとめました。各操作を細かく見ていくとそれぞれにどのような役割があるのか見えています。ひとまず調べた限りで梅酒の作り方の最適化をざっくり行いました。家庭で美味しい梅酒を作るときの参考にしていただけたらと思います。

詳細な作り方は別記事にしているのでこちらも御覧ください。

関連記事:「追熟梅酒」を作る

関連記事:追熟梅酒の仕上がりと味

参考文献

日本醸造協会誌, Vol.59, No.7(1964), 105-108
日本食品工業学会誌, Vol.38, No.4(1991), 14-19
日本家政学会誌, Vol.48, No.4(1997), 295-301
日本家政学会誌, Vol.52, No.11(2001), 87-92
東京家政学院大学紀要, Vol.20, 1980, 139-140
東京家政学院大学紀要, Vol.20, 1980, 135-137
園芸学研究, Vol.7, No.2(2008), 299-303
近畿中国四国農業研究, Vol.14, 2003, 118-122
http://www.agri-net.pref.fukui.jp/shiken/hukyu/h25.html
群馬県農業技術センター研究報告, Vol.11(2014), p89-90

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コメント

コメント一覧 (6件)

  • 素晴らしい記事です。
    実の取り出しについては「好み」とするプロもいますが
    渋味が出たりと、良いことはありません。
    自分の経験的にも実は2ヶ月しないうちに取り出します。

    冷凍もエキスをよく出すにはいい方法ですし
    私の落ち着いた作り方とほぼ同じでした。

    ベースのお酒の選択肢は文献には無いでしょうから、
    この作り方を元に、お酒と梅の種類をいじれば
    失敗せず楽しめると思います。

  • エア本さん
    コメントありがとうございます。
    長時間漬け込んだ果実酒の薬臭さみたいなのが苦手で、こういった製法を調べて実践しています。
    エア本さんが経験的に得た製法と似ているようでよかったです。
    もし、可能でしたら美味しく作るコツなど教えていただけたら嬉しく思います。

  • こんばんは。
    好みもあると思うので私的な経験談で恐縮ですが、列記します。

    梅はできるだけ実の大きく果肉の厚い南高梅を使用しますが
    4L瓶で仕込むとき梅を1kg使うと多すぎる上、エキスが出すぎるので
    3割程度減らします。
    肉厚の方が、種の渋味が出るのを防ぐ効果があるのではないかと思っています。
    “紅”南高梅は色も良く香り・酸味が増す気がしますが
    同条件で梅違い、という梅酒を作ったことが無いので
    味への影響の程度は正直わかりません。
    特にまろやかなものを作りたい場合追熟を行います。

    前処理は細かいことですが
    ・ヘタの部分を綺麗に楊枝等で1個ずつ取る
    ・綺麗に洗う。その際、産毛を綺麗にとってきちんと拭く
    (後者はほぼ見た目だけの影響かと思います)

    梅酒作りの中でも、ベースの酒の選択が最も重要です。
    私はできるだけベースの酒の味や香りが残らない、
    まろやかな梅酒を作りたいのですが
    度数の高い酒や、日本酒を使うと味残りがきついです。
    高級ブランデーやウイスキーで何度か試してみましたが、美味しくはありませんでした。
    例外的に、カルヴァドス(アップルブランデー) 仕込みは、
    薄めるとすっきり飲めましたが、香りはわからなくなっており
    ブランデーである意味はありませんでした。

    ホワイトリカーは最も一般的ですが、アルコール臭く、刺激があります。
    まろやかなものが楽しみたい場合長い熟成期間が必要です。
    私は2年熟成させてもアルコール感があって好きになれませんでした。

    今のところベストなのは、飲みやすくまろやかなタイプの芋焼酎です。
    赤○島、あらわざ○島など、元々、芋系の香りは少なめな銘柄がおすすめです。
    芋の香りが残るのが心配になりますが、出来上がりに
    芋焼酎らしさは残っておらず問題ありません。
    1年~2年でも非常にまろやかな仕上がりでした。

    糖分は砂糖の部分代替で果糖の割合を増やすとすっきりしてきます。

    仕込み終わったら
    ・見た目と味を見て梅を取り出す(1~2ヶ月)
    冷凍梅を使った場合、抽出が早いのですぐ出した方が無難です。
    渋味・えぐみが出るので長期間漬けたままは避けた方がいいです。
    ・光を通さないように包んで冷暗所保管
    ・濾過して遊離成分(おそらくペクチン主体)を濾しとる(見た目の問題)
    ・よく混ぜてから、好みの度数に薄める
    糖分が沈んで不均一になりがちなので、置いてあったものを掬うと
    渋味やアルコール感が強いことがあります。

    長々と書きましたが一部でも参考になれば幸いです。

  • こんばんは。
    詳細な解説ありがとうございます。
    これはすごい・・。

    梅の質や量までの知見があるとはさすがです。
    4L瓶で1kgが多いというのは寝耳に水なので今年試してみますね。

    酒類についてもここまでまとめているとは。
    言われている通り、ホワイトリカーではちょっとアルコール臭がきついと思っていたので大変参考になります。
    こちらも芋系で試してみます。

  • あとでさん

    私の場合、梅の実は特大のサイズを使用しているためか
    果肉量が多く、出来上がりが濃いのです。
    そのため経験的に、量を減らしています。

    通常購入される規格の実(3L程度)ではエキスの出が十分かどうか
    やったことが無いのでわからないです。
    問題無ければ、減らした分で違う種類を作ってもいいかもしれませんね。

  • エア本さん、こんばんは。
    梅のサイズの情報ありがとうございます。
    梅の果肉の量まで検証したことがなく、大変助かります。
    ちょっと濃い気がすると感じていたので少し減らす等対応してみますね。

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