豚の真空調理、低温調理の際、問題になる菌・微生物・ウイルス・寄生虫とその殺菌、不活化時間など調査してまとめました。また、実際の調理に必要な食味の話も併せて解説します。
はじめに
豚肉は寄生虫、ウイルス、雑菌が多いからしっかり火を通して食べなさい。小さいときから豚肉を食べるたびに言われ続けてきました。しかし、一般的に火を通すと肉は固くなるため様々な手法で肉を固くしない工夫が行われています。
最近話題の低温調理は、肉に火が入りずぎずロゼ色でしっとりとした仕上がりになる調理法として注目を集めています。
一方で不十分か加熱では食中毒の恐れがありるため、食中毒のリスクや微生物などの死滅条件から限界に近い温度と時間の条件出します。また、実際の調理に必要な調理法も併せて解説します。
豚の危害要因
豚肉で低温調理でのリスクとなる主な微生物は次の通りです。
・サルモネラ菌
・カノピロバクター
・トキソプラズマ
・トリヒナ
・有鉤条虫
・E型肝炎ウイルス
ざっとこのくらいになります。よく見るサルモネラ菌やE型肝炎ウイルスに始まり、馴染みのない微生物の名前まであります。それぞれ人間に害があるものなので生ではそれぞれのリスクを負うわけです。これを見ると豚の生食って絶対だめじゃんとしか思えませんね。マジで。
各危害要因の死滅条件
前途した危険因子がそれぞれ何度で死滅、不活化する温度は次のとおりです。
〇サルモネラ菌
60℃ 15分で殺菌
57.2℃ D値 4.2分
(D値 菌数が1/10になる時間)
〇カノピロバクター
50℃以上の加熱で不活化
〇トキソプラズマ
49℃ 5分で死滅
〇トリヒナ
52℃ 47分で死滅
〇有鉤条虫
56℃で死滅
〇E型肝炎ウイルス
肝臓試料と糞便等から分離した分離で異なる結果が報告されています。
肝臓試料 70℃ 10分
糞便等試料 60℃ 10分
〃 56℃ 60分
ただし、E型肝炎ウイルスは筋肉に含まれておらず、肝臓や糞便、内蔵に含まれます。筋肉に付着しているのは糞便等からの再付着によるものです。
低温調理の可否
E型肝炎ウイルスは、低温での不活化が困難です。なのでE型肝炎ウイルスを含むホルモンや内蔵系の部位は低温調理不可となります。
それ以外の部位、バラ肉やロースなど筋肉の部位については低温調理可能です。
低温調理の温度と時間の算出
ちょっと分野はことなりますが、医療系の微生物管理のノウハウを参考にします。医療系の現場では、滅菌という菌を限りなく0に近づけることが行われています。いないことを証明することは非常に難しいので、D値の12倍の時間処理することで菌数が初期数の1兆分の1にして滅菌したとするものです。
低温調理と滅菌ではかなり隔たりがあるように思えますが、菌を減らすということは同じです。この菌数を初期の1兆分の1にするということを低温調理に応用して加熱時間の算出をします。
前述した微生物の死滅条件やD値から、比較的温度耐性の高いサルモネラ菌に対して特に対策を行う必要があります。
サルモネラ菌のD値は、57.2℃で4.2分なのでこの数値と時間を使い算出します。
4.2分は、252秒なので
252×12÷60=50.4(分)
計算上、57.2℃で50.4分保持すればよいということになります。実際に低温調理を行う場合はこれより高い温度、長い温度条件にすれば食中毒のリスクを減らすことが可能です。
実際の調理
実際に調理する場合、微生物対策に必要な温度と食味を加味した温度と時間を設定する必要があります。
低温調理した肉をカットすると、真っ赤な肉汁が出てくることが多々あります。せっかく閉じ込めたはずの肉汁が出てしまうのはもったいなく感じます。肉汁に対する対応として、加熱時間を長くするのが手っ取り早いといえるでしょう。大体心温が所定の温度になったら2-3時間加熱すると肉汁が出にくくなります。また、肉を冷ましてからカットするのも有効です。
他にも筋の多い肩ロース、バラなどは、低い温度、短い調理時間だと筋がぐにゅぐにゅした食感でイマイチです。しっかり噛み切れるような食感にするためには、60℃で7時間以上の加熱が必要となります。
調理には専用の器具が必要と思われますが、温度計で水温を手動で調整しながらでも調理可能です。他にも炊飯器を使ってもそこそこ柔らかく美味しく作れます。
炊飯器の保温は70度前後で低温調理としては高い温度と思われますが、通常の加熱に比べ温度が低いため肉の硬化速度も遅いのでそこそこ柔らかくなります。まだきっちりしたデータは取れていませんが、体感で1〜1.5時間以内の加熱であれば内部は硬くならずしっとりします。
専用の器具についてはこちらにまとめているのでご覧ください。現在は色々なメーカーから販売されています。その中でもBOINQは日本語の技術資料やレシピが多くオススメです。
まとめ
E型肝炎ウイルスを含まない部位の低温殺菌は可能です。しかし、肝臓や内蔵に含まれるE型肝炎ウイルスは不活化ができません。
豚肉の低温調理の温度は57.2℃で60分以上の保持を推奨します。この場合の保持とは内部温度です。温度計を使いつつ温度管理をしっかり行いましょう。
低温調理に関する記事は一覧にしています。技術的な資料、レシピをお探しの場合はこちらもあわせてご覧ください。
参考資料
食品安全委員会
豚の食肉の生食に係る食品健康影響評価 食選安全委員会 微生物・ウイルス専門調査会
厚生省 食品別の規格について
厚生省 食肉の生食に関する対応ついて(案)
The Open Veterinary Science Journal, Vol.1(2007), 1-6
生物工学会誌, Vol.89, No.12(2011), 739-743
医療現場における滅菌保証のガイドライン2015
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