いくつかの油を使って比較して良さそうな油を見つけます。
はじめに
育った鉄のフライパンの表面は、油の酸化によってできた重合物の樹脂の皮膜(以下コーティング)で覆われています。鉄自体は酸化しやすく、水があるとすぐに赤錆ができてしまいますが、育った鉄のフライパンのような油の重合物に覆われていれば水や酸素と鉄が反応しないため、錆を防ぐことが可能です。
とある宗派によると、決して洗剤で洗わずに長い年月をかけて作るものというものがあります。
これまでブログでは、鉄のフライパンの育て方を理屈方面から調べた結果、鉄のフライパンは長い年月をかけずともすぐに育てることがわかりました。
しかし、課題として、油の重合物であるコーティングが使用中に剥がれてしまうことがあります。
今回はこの対策として、使える油のスクリーニングを行いコーティングが剥がれにくい油があるのか調査します。
使用する油について
油は何でもいいという訳ではなく、不飽和脂肪酸と呼ばれる二重結合をもった油(オレイン酸、リノール酸、リノレン酸)が必要になります。二重結合の数の多いリノレン酸やリノール酸を多く含む油が最適と考えられます。
次表が様々な油の組成を100分率で表したものになります。それぞれ個別の成分については一旦置いておきます。気になる人はクリックして拡大して眺めていただけたらと思います。
数字はちょっとなめているので正確な組成というよりもざっくりこのくらいという認識をしていただけたらと思います。
この表から飽和脂肪酸とそれ以外を抜粋し、飽和脂肪酸のオレイン酸、リノール酸、リノレン酸それぞれの割合も併せてまとめたのが次表になります。
油慣らしには、不飽和脂肪酸の含有量が多く、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸が多い油を適用することがこれまでの調査で分かっています。たとえば、アマニ油、ベニバナ油、グレープシードオイル、ひまわり油と言ったところでしょうか。
すべての油で比較するのはちょっと難しいので良さそうな油を見繕って試験を開始します。
仮試験方法
まず、フライパンについてですが、今回は黒錆を落として銀色の鉄の地肌を出した鉄のフライパンを使います。これは、結果を観察しやすくするためです。
油についてですが、二重結合を含む油は色々あり、二重結合がひとつのオレイン酸、ふたつのリノール酸、みっつのリノレン酸をそれぞれ多く含む油があります。
これらの含有量の高い油をフライパンに塗布してコーティングを形成します。その使用前後を比較して油による差を目視確認してみます。
使用する油はそれぞれ次の通りです。
〇オレイン酸系・・・オリーブ油 (二重結合がひとつ)
〇リノール酸系・・・グレープシードオイル (二重結合がふたつ)
〇リノレン酸系・・・アマニ油 (二重結合がみっつ)
今回は仮試験なのでフライパンの1/3に塗布して様子を見てみます。
仮試験結果
コーティングを形成したものがこちら。左がオリーブオイル、上がグレープシードオイル、右がアマニ油です。
グレープシードオイル、アマニ油は結構きれいなコーティングが作れました。しかし、オリーブオイルではコーティングの形成できてない場所が目立ちます。
次に、実際にこのフライパンを使ってみて使用後にコーティングがどのようになっているか観察した結果です。フライパンの左がオリーブオイル、上がグレープシードオイル、右がアマニ油です。
きびしめに扱ったのでコーティングが剥がれている場所がちらほらあります。
特にオリーブオイルの場所でコーティングが剥がれてしまったように見えます。アマニ油、グレープシードオイルにも軽微な剥がれが見られます。
オリーブオイルでコーティングの剥がれが顕著なことから、組成に注目すると、アマニ油やグレープシードオイルに比べ飽和脂肪酸の含有量が高いことがわかります。
おそらく、飽和脂肪酸がコーティング内に残っていて調理中に再加熱されることで揮発するときに新たな隙間ができ剥がれて行ったりするのかなと思います。確固たる証拠はないので言い切れないですし、ちゃんした調査をしたら違うのかもしれませんので、思う、程度にとどめておきます。
本試験方法
先の結果から、オリーブオイルはコーティングに不向きだったため、飽和脂肪酸含有量の少ないベニバナ油のハイオレックタイプのものを使用します。
使用する油は次の通りです。
〇オレイン酸系・・・ベニバナ油(ハイオレック)
〇リノール酸系・・・グレープシードオイル
〇リノレン酸系・・・アマニ油
それぞれをフライパン一枚に塗布して加熱することを数回繰り返してコーティングを作ります。その後、一度焼き物を作って観察して評価します。
結果
まずは焼き上がりから。
オレイン酸系のベニバナ油です。
ちょっと露出ミスってて色が明るめですが、綺麗なコーティングができました。
次はリノール酸系のグレープシードオイルです。
こちらも綺麗な皮膜ができました。オレイン酸に比べるとちょっと色が強め。
最後にアマニ油です。
こちらも綺麗なコーティングができました。色は結構黒く仕上がります。
仕上がりの差は、色の濃さくらいでオリーブオイルのような油切れのような不均一な結果になることはありませんでした。コーティングを作るなら不飽和脂肪酸の含有量が高ければ綺麗に形成できると考えられます。
次に使用後の様子を見ていきます。
まずはオレイン酸系のベニバナ油です。
中心部から少し離れた部分に同心円状の剥がれが見られます。これは火のあたっていた一番温度が高くなった部分です。
次はリノール酸系のグレープシードオイルになります。
こちらも先ほどと同じように火のあたった部分に同心円状の剥がれが見られます。
さいごにアマニ油です。
こちらもコーティングの剥がれが見られますが、他の油に比べると剥がれている面積が一番多い結果となりました。
これらの結果から、油のコーティングは火の当たっていた高温になる部分で剥がれやすいということが分かりました。特に剥がれやすい油は、最も重合しやすいリノレン酸を多く含むアマニ油です。
コーティングに適した油は、ベニバナ油≒グレープシードオイル>アマニ油ということになります。つまり、不飽和脂肪酸の含有量が高い油であればどの油をコーティングに用いても問題ないと言えます。
剥がれるからダメなんじゃないの?と思われる方もいるかもしれませんが、火の当たっていない部分や側面でコーティングの剥がれはありませんでした。
従って、鉄のフライパンを錆から守るために最初にやる操作としては十分と考えられます。あと、黒皮処理された製品だとよく見ないと見わけがつかない可能性もあります。
おわりに
新品の鉄のフライパンを使う前に油慣らしと呼ばれる処理に使う油について検討しました。
その結果、不飽和脂肪酸の含有量の多い油であれば綺麗なコーティングを作れることがわかりました。よく油慣らし使用されるオリーブオイルは、コーティングも綺麗に作れず剥がれやすい結果でした。
一方でどの油でも使用後には高温部に多少剥がれが見られます。比較的に剥がれの少なかったものは、ベニバナ油やグレープシードオイルといったオレイン酸やリノール酸の含有量の高い油でした。
剥がれが問題に感じることもありますが、使用中に焦げ付くようなこともないですし、普通に使っていても錆びることはないので問題ないと思われます。
剥がれない部分もあるので、何かしら剥がれに対して対策ができるのかもしれませんが、現在のところ一度で完璧なコーティングを作ることに成功していないため、今後の課題とさせていただきます。
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