ローストビーフやステーキを低温調理するときに必要な加熱温度、時間を調べました。ここで扱うのは内臓以外の肉になります。内臓では行わないで下さい。
はじめに
肉の調理を最適化した低温調理は、肉汁を逃さず生に近い食感を保てる調理方法として近年注目されています。低温調理では、加熱する温度が低いため殺菌するのに必要な時間が長くなります。
牛肉のリスク
牛肉は、肉の切断面に付着した菌によって食中毒が起きることが知られています。特に注意が必要なのが大腸菌とサルモネラ菌です。
殺菌温度と時間
大腸菌
55℃ D値 5.5-8.5分
(D値 菌数が1/10になる時間)
サルモネラ菌
60℃ 15分で殺菌
57.2℃ D値 4.2分
55℃ D値 4.6-5.4分(牛ひき肉)
(D値 菌数が1/10になる時間)
文献値をまとめるこうなります。条件によって値にバラつきがあます。特に大腸菌では非常に大きな数字が報告されていることからそれなりの時間の低温殺菌が必要です。
低温調理の温度と時間の算出
豚肉の記事ともダブってしまいますが、医療系の微生物管理のノウハウを参考にします。医療系の現場では、滅菌という菌を限りなく0に近づけることが行われています。いないことを証明することは非常に難しいので、D値の12倍の時間処理することで菌数が初期数の1兆分の1にして滅菌したとするものです。
低温調理と滅菌ではかなり隔たりがあるように思えますが、菌を減らすということは同じです。この菌数を初期の1兆分の1にするということを低温調理に応用して加熱時間の算出をします。
牛肉で特に注意が必要なのが大腸菌になります。そのD値も幅があり、55℃で5.5-8.5分と報告されています。この値を用いて算出を行います。
5.5分は330秒、8.5分は510秒なので
330×12÷60=66(分)
510×12÷60=102(分)
55℃で66-102分保持すればよいということになります。
実際の調理温度と時間
実際の調理では微生物対策と食味を加味した温度条件の設定が求められます。
牛肉の調理の場合、ローストビーフのようなもも肉の調理では55℃で102分の加熱で十分でしょう。
しかし、肩ロースなどの筋が多い部分ではこうはいきません。筋の部分は軟化して食べれるようにするには温度も時間も不足しています。
例えば牛すじの調理は60℃で400-500分でストレスなく噛み切れるくらいになります。
関連記事:牛スジを60℃で低温調理したときの加熱時間の最適化
このように部位によって温度と時間を調整する必要があるので55℃で102分は限られば部位、モモ肉のような筋の少ない部分に限るということです。
また、牛肉の低温調理は加熱時間が短いと赤い肉汁が出てきてしまい見た目が損なわれてしまいます。2-3時間の加熱をすることで肉汁をかなり閉じ込められるのでお困りの際はお試しください。
おわりに
牛肉の低温調理に必要な温度と時間を求めたところ、55℃で66-102分保持という結果になりました。
牛肉自体、刺身で食べたりステーキをレアに焼いたりするのでそこまで神経質になる必要はないと思いますが不十分な条件で調理すると食中毒のリスクを高めます。
それなりの根拠を持ち、リスクと向き合って納得してから調理することが必要です。低い温度での調理は魅力的ですが、自信がない場合は高い温度に設定しましょう。
低温調理をする調理家電で迷っていたらこちらも参考にしてください。
関連記事:肉の低温調理に使える調理家電のまとめ
参考資料
厚生省 食品別の規格について
厚生省 食肉の生食に関する対応ついて(案)
生食用食肉(牛肉)の規格基準設定に関するQ&A
平成15年度病原微生物データ分析実験作業成果報告
日本食品保蔵科学会誌, Vol.28, No2(2002), 75-80
医療現場における滅菌保証のガイドライン2015
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