冷めるときに味が染み込む理由

通説は真実とは限らないよという話。

はじめに

煮物は冷めるときに味が染み込むと言われて冷ましという操作を行うことで味がよくなることは広く知られています。

これに対する説明がイマイチ納得行かない。というのも物質の移動(拡散)は温度が高いほど早いとうのが一般的に知られた話だからです。冷ますことが物質の移動速度を増加させたりするとはありえないというのが直感的な感想になります。

物質の拡散

拡散は温度に依存します。例えば、アミノ酸分子のダイコンへの拡散係数は20℃で1.0×10-9 m2/s、98℃で3.5×10-9 m2/sと推算され3倍以上違います。また、味がしみることについて次のように解説されます。

「味がしみる」(拡散)のは時間オーダーの現象です。 食物中の伝熱と拡散は係数のオーダーが2桁違う*)ので,煮るのは短時間ですが,そのあと味がしみるには時間単位で待たなくてはならないというのが「煮物は冷めるときに味がしみる」の説明となります。

化学工学,Vol. 73, No. 2, 98 (2009)

これとは別の文献では、食塩が食品に拡散する速度を比較して次のように結論付けられています。

温度が低下する過程での味のしみ込みの効果は認められなかった。このことは,官能評価においても確認された。冷めるときに味がしみ込むというのは,加熱直後にくらべ,冷めてからの方が味が濃い,つまり冷めるまでの時間に味がしみ込むということを指していると考えられる。

日本調理科学会誌, Vol.45, No.2(2012), 133-140

というのを見てなるほどなと思いました。拡散の話からすると、味が染み込むことを説明することはできないですが、他の現象に着目してみます。

食材への吸着

食材は水分に満たされた多孔質の物体です。水に味覚成分が拡散することで味が染み込むわけですが、多孔質ということは吸着も起こっていると考えられます。

試しにこんにゃくに醤油を染み込ませてみます。こんにゃくは大半が水分のゲルですが、塩析によって不溶化しているので疎水性の部分があり吸着剤として使用可能と思われます。また、醤油は白い繊維に付着すると落ちにくいので吸着させる物質に適していると判断しました。

こんにゃくに醤油を吸着させることで食材への吸着が起こるか確認してみようと思います。

左から、醤油浸漬1日、未処理、醤油浸漬後2日水にさらしたものです。これではよくわからないので未処理のものと水に晒したものを半分にして内部を見てみます。

右が醤油を染み込ませて水に晒したものです。醤油が抜けきっておらず醤油の色素が吸着していることがわかります。

思ったより色が抜けているのは醤油や水に晒すことで表面が崩れかけていたため水との接触面積が増えたためと思われます。

温度が低いと吸着量が増える

吸着は発熱をともなう平衡反応です。

固体 + 溶質 ⇆ 吸着 + 熱

水溶液中に溶けていた溶質は吸着によって固体表面に拘束されるため、運動エネルギーを失い発熱します。水蒸気の蒸発の逆の反応が起こっているようなものです。

ルシャトリエの原理より、熱を取ることで右に進む反応が進みます。つまり冷ますほど吸着量が増えるということです。冷ますと味がよく染み込むという煮物で起こる現象をリーズナブルに説明できそうな感じがします。

でもイオンとか水溶性の高い物質は吸着しないので本当に味として現れるのかってのは微妙に思えます。水に溶けにくい香気なんかはこれで説明できそうですけど。

浸透圧について

一応書いときます。浸透圧は関係ありません。なぜなら半透膜がないからです。いやいや、細胞膜にあるでしょと思う方もいると思いますが、加熱によって細胞膜には穴が空き半透性が失われています。

加熱していない食材には半透膜が存在しますが、味を染み込ませるために生の食材を非加熱でってことはありえないのでこの議論は不毛でしょう。

おわりに

冷めるときに味が染み込むというのは煮汁に漬けている時間に依存しているので調理後冷めたときに味がしみていたということから広まった通説だと思われます。

冷ましというプロセスを吸着という切り口でみるとうまく説明できそうですが、水溶性の高い味覚成分に適用できるかは不明です。風味が増すという説明にはなりそうですけど、それを裏付けるデータを取るに至っていません。というか家庭じゃこれくらいが限界じゃないかな。

というわけで今回は以上になります。

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コメント

  1. aaaaa より:

    https://www.shizecon.net/award/detail.html?id=49
    直径18mmのアクリル製パイプの一端に、人工透析用の半透膜を着け、その中にしょう油水溶液(80℃)を入れた。これをビーカーの水(80℃)の中に立てると、温度の低下とともにしょう油水溶液の液面が上昇、下降した。70~60℃のときに、ビーカー内の水(ダイコンやコンニャクと想定)が半透膜を通してしょう油水溶液側に移動したため液面が高くなった。40℃では逆に、しょう油水溶液か

  2. あとで より:

    半透膜は加熱によって半透性を失っています。あと、よくこの研究出す人いますけど、データよく見ると温度を下げる試験の浸漬時間が長いので単純比較できません。