はじめに
おでんは代表的な煮込み料理のひとつです。煮込めば煮込むほど美味しくなると思われますが、長時間煮込んだ練り物は弾力が失われ味が抜けるため食味が落ちます。極端な例はトリビアの泉で作っていた一カ月煮込んだおでんでしょうか。あまりにもの黒さは松崎しげるに迫るほどです。味も美味しくないそうで、煮込む時間が長すぎると良くないということを教えてくれました。
では、煮込み時間はどのくらいがいいのか、今回は練り物に限定した検証を行います。
おでんの美味しさの変化
おでんのレシピをみると、練り物は最後に加えてから数十分煮込むというものが多く見られます。これは、練り物が持っているうま味が煮汁に出きってしまう前に調理を終えるためです。従って、美味しさは次のグラフのようになると考えられます。
縦軸は美味しさ、横軸は加熱時間を示した経時変化とします。初期は練り物単体の味で出汁をそこまで吸っていない状態です。調理時間とともに、練り物からうま味が出ていくとともに出汁を吸い美味しくなり、どこかで美味しさはピークアウトする、というのを勝手に考えて絵にしてみました。大きくは間違ってないけど多分少しは合ってるはず。
練り物から溶け出してくる成分を追っかければ、適切な煮込み時間、あるいは煮込み時間の限界が見えてくると考えられます。そこで、練り物の塩分に着目します。
練り物は、塩などを練り込み加熱して作られるため、2%前後の塩濃度を持っています。この塩が煮汁に拡散していく様子を測定すれば煮込み時間の限界を見極められると考えられます。
試験方法
練り物から溶け出す塩類を導電率として測定します。導電率は電気の通りやすさで、家庭用の器具では塩分濃度計として販売されています。薬品を使うことなくすぐに測定値が得られるので、こいつでデータを取っていきます。
加熱温度は90℃。一度煮たてた鍋をオーブンで保温して煮込んだ状態とします。
〇条件
・水道水 1L(導電率として165μS/cm)
・練り物 ちくわ1本(35g)
・加熱温度 90℃
この条件で練り物の塩分がすべて溶けだした場合、1850μS/cmになるので、この数字を試験終了の目安とします。
結果
試験結果は次のグラフに示します。
縦軸は練り物に残った塩分を百分率とし、横軸は時間として経時変化を表しています。そのため初期は100%です。
練り物を水に浸した直後から塩分の溶出が始まります。この速度は思った以上に早く、30分も加熱すると塩分は初期の40%程度、60分では初期の80%以下になってしまいます。その後も徐々に塩分は溶出し、加熱開始から135分も経つと、練り物の塩分はほとんどが抜けてしまうことがわかります。
実際の調理に当てはめると、2時間は煮すぎということがデータから読み取れます。調理に適した加熱時間は、長くても1時間、実際にいいところは45分未満に抑えるの望ましいと考えられます。
未検証事項
今回は練り物の塩分に絞ったデータの取得をしました。練り物には糖分やうま味といった、導電率として測定しにくいものもふくまれています。今回はこれらのデータを取るまではできませんでした。というか、金をかけずに簡単に測定できる方法を知らんです。
分子量がかなり違うので推算すれば多分近似値は出せると思いますが、面倒なので今回はこの辺で。
おわりに
練り物は1時間も煮込めば80%以上の塩分が溶けだしてしまいます。煮込めば煮込むほど良いと思われがちですが、味が抜けていく速度も速く、煮込み時間は長くても45分以内にする必要があります。
検索して出てくるレシピの加熱時間も長く煮込むものではなく、20分とか40分とか見かけます。煮込む時間が短すぎるのでは?と考えていましたが、加熱時間は短くした方がいいという出てきたことに私自身、驚いております。
実際に美味しいかは味見しながらお試しください。
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