牛スジを60℃で低温調理したときの加熱時間の最適化

牛スジを圧力鍋で調理すると、スジの部分はプルプルになります。でも肉の部分は水分が抜けてパッサパサ。これ、なんとかなんないのかなと思って低温調理でスジを調理できないかデータを取ってみました。

目次

はじめに

低温調理では24時間、48時間といった長時間加熱する場合があります。特殊な条件かと思いますが、スジ等の硬い部分を柔らかくするときに使わられる手法です。

このとき懸念されるのは嫌気性細菌の増殖です。嫌気性細菌は比較的高い温度で増殖する種類もあり、代謝する臭気はひどいものです。

また、微生物リスク以外のもレトルト食品のような何とも言えない臭みも出てくるのであまり長時間の加熱をしたくありません。

今回はスジに含まれるコラーゲンを柔らかくするために必要な時間を実験によって求め長過ぎる調理時間をどこまで削れるか確認します。

スジが柔らかくなる理由

スジはコラーゲンと呼ばれるタンパク質でできています。

コラーゲンは熱をかけると収縮します。いわゆるスジが硬いという状態。さらに加熱を続けるとコラーゲンは水に溶け出して柔らかくなります。

さらに加熱すれば全体が柔らかくなるように思えますが、すべてが柔らかくなるわけはなく、一部は硬いまま残ってしまいます。これはコラーゲンには水溶性でないコラーゲンもあるためです。

スジを長時間加熱してプルプルになるというのは、加熱によって水溶性のコラーゲンが溶け出した状態と言えます。

このときの溶け出したコラーゲンの重量を測定できれば、柔らかくなるまでの時間を導き出せます。たぶん。

測定方法

牛すじを加熱して重さの経時変化を追っかけます。

まず、牛スジをミンチにしてトランスグルタミナーゼを1%くらい混ぜます。そして一晩冷蔵庫で寝かせて肉がくっつくのを待ちます。牛スジが分散した状態の肉塊が完成します。こうすることで複数の条件で同じような肉を使うことができます。(使わなかったけど)

これをいくつかの塊に切り分けます。はかりで測定します。

これを加熱して重量の経時変化を測定します。

加熱結果

60℃で加熱して適当な時間に重量を測った結果を次の図に示します。縦軸を肉の重さ、横軸を加熱時間(分)としました。

加熱開始後から60分まで重量変化はありませんが、その後、徐々に重量が低下して加熱時間400-500分で変化しなくなります。それ以降、変化はありません。

この重量の変化は、牛すじのコラーゲンが加熱によって可溶化して溶け出していると考えられます。

ということで仮説が正しい場合、牛スジの60℃における低温調理は400-500分という結果が得られました。

これ、水が抜けてるだけでしょうという方のために、この肉片をさらに100℃で20分加熱したあとの重量も測定しています。結果は重量は15.85gでした。筋肉が縮み水分が抜けたものでしょう。

この測定結果に基づいて調理をしてみたところ、スジは十分柔らかくなることを確認しています。ただし、圧力鍋で炊いたように半透明でプルプルになるというわけではありません。歯で苦労せず噛み切れる程度です。

このデータを元に筋の多い部位を用いた調理例がこちらです。あわせて御覧ください。

関連記事:Anova Precision Cookers で作る焼豚(煮豚)

おわりに

牛スジの低温調理に必要な温度と時間は60℃で400-500分でした。非常に長い時間加熱が必要なのがわかりました。

この結果は牛だけでなく豚にも有効です。また、スジ肉だけでなく、肩ロースやバラといったスジの多い部位にも有効なので参考になったらと思います。

低温調理のレトルト臭にお困りの場合は、マスキング焼酎という臭み消しが売っているので購入を検討ください。

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参考文献

日本食品工業学会誌, Vol.24, No.6(1977), 311-315

エバラ時報, No229(2010-10), 27-38

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