浸透圧と料理の関係

料理の解説で出てくる浸透圧について、雑な解説がされることが多く感じます。分野が異なれば言葉は多少違ってもいいのですが、ちゃんと理解を深めるためにはちゃんと知ることも大事です。

はじめに

肉に塩をふると浸透圧で水が浮いてきて~、浸透圧によって食材が美味しくなるんです~、ブライン液が浸透圧によって~、よく聞く料理の解説です。

お、著名な先生はさすがだなぁ、なんて思っていませんか。

たぶん、こういった解説を聞いて溶液化学をちょっとでも触ったような人は違和感を覚えるわけです。

浸透圧ってそもそも水が浮いてきたり、料理を美味しくするものなのでしょうか。

今回は、浸透圧について、溶液化学の視点から解説します。

浸透圧について

浸透圧は、半透膜を介した物理現象です。

半透膜は水分子のみが通れる膜になります。非常に小さい孔なので砂糖や旨味成分といった分子量の大きい物質は通ることはできません。

濃度の異なる溶液を半透膜で仕切ると、希薄溶液側から濃厚溶液側へ水分子のみが移動します。このときの液面差を浸透圧と呼ぶわけです。

端的に言うと、濃さの異なる水溶液とそれを隔てる半透膜がなければ起こりえない現象と言えます。

この辺をちゃんと理解せずに美味しくなる、柔らかくなるなどは言えないわけですが、現実ではそうなってません。

浸透圧よって、こうなるわけです。と言った説明する型に当てはめただけの解説によって現実がねじ曲がって伝わっているのが現状でしょう。

基本的に、浸透圧によって生じるのは水の移動のみなので、砂糖、塩、うま味といった水よりも大きい分子は移動しません。

料理や美味しく作る方法で水の移動のみで解説されていることはほとんどなく、溶液化学の視点からみるとかなり疑問なところが多いのが現状です。

じゃあ、実際どうなのよって話は、それぞれの場面について解説します。

下ごしらえ

食材の下ごしらえで塩濃度1%くらいの食塩水がよく用いられます。生物は大体1%弱の塩濃度なのでこれよりも薄い水道水などを下ごしらえに使用すると、水を吸って水っぽくなってしまいます。

一方で、あえて真水を使い、食材に水を吸わせて美味しくさせるテクニックが存在します。

とんかつ屋でシャッキシャキの千切りキャベツを食べたことはありませんか。これは、千切りにしたキャベツを水に浸して水を吸わせて細胞がパンパンにさせたものです。

パンパンの細胞なので噛むとシャッキシャキの食感になるわけです。

千切りは表面積の多い調理なので水に浸すとキャベツの水溶性の栄養が溶けだしてしまいますが、食味の大幅な向上に大きなメリットがあるのでトレードオフということでしょう。

他にもタマネギのサラダもシャキシャキにするために真水に浸したりすることがあるので、野菜の食感を変えたい場合は重要なテクニックと言えます。

漬物

塩漬けにするとき、野菜に塩をふります。

塩は接触部分の水分を吸い、溶けて水溶液となり、非常に高い浸透圧が生じます。

野菜は生の状態で漬け始めるので細胞の半透膜は機能しています。しかし、野菜細胞内の塩濃度が低いので外部の塩や塩水へ水分のみが移動して水が浮いてきます。

一方で塩はイオン化した場合でもイオン半径が小さく、半透膜を通り抜けてしまう場合があります。また、半透膜が機能しなくなると内部へ拡散していくので塩辛くなります。

そのため塩漬けしたものは塩抜きという操作が行われる場合もあります。

脱水シート

浸透圧を利用して水分だけを吸いとり食材の味を濃縮させる商品が販売されています。

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ピチットシートのような脱水シートは、半透膜の内部に糖類が入っています。

シート内部の浸透圧は非常に高いので、肉や魚などの生物に関わらず、豆腐やこんにゃくなど、水分を含む食材から水分を吸い取ることができます。

食材側の半透膜の有無に関わらず比較的短時間で脱水できる素晴らしい調理器具です。

煮物

煮物に味が染み込むというところで浸透圧が用いられることがあります。

半透膜は水分子のみを透過します。仮に煮物が浸透圧の影響を受けるのであれば味は染み込みません。

味が染み込むという話は物質の拡散の話なのでこちらの記事をご覧ください。

アサリのお湯洗い

昨今話題のアサリの砂抜き。

お湯を使うと簡単に砂抜きができるけど、旨味も一緒に抜けてしまいます。これも半透膜がという説明をされるかたがいますが、半透膜は水分子以外を通さないので旨味がお湯側に抜けることはありません。

実際のところはタンパク質の緩やかな変性によって半透膜が機能を失いアサリ内部から旨味が抜けて切れるといったところでしょう。

ブライン液

肉を柔らかくするためにブライン液という食塩水に肉を浸すことがあります。

さて、浸透圧によって柔らかくなります、と解説されて納得できますか。

ブライン液の要点は、食塩水にタンパク質の一部が溶け、加熱による肉の収縮が弱くなる点です。浸透圧は水の移動が起こるので、塩が肉の中に拡散していくという解説は矛盾が生じます。

実際は、肉の細胞には細胞膜がありますが、膜の阻止率が100%でないため、時間をかければ内部まで拡散していきます。

塩水にさっと浸したくらいでは効果がなく、数時間の浸漬が必要なことから、塩が内部まで拡散して肉を柔らかくする効果が発揮されると考えられます。

肉に浸透圧がという解説は、脱水が進み味が濃縮されるくらいが適切でしょう。

おわりに

浸透圧は半透膜があって初めて生じます。

料理においては水を吸わせてシャキシャキにしたり、余分な水分を除去するときに有効な物理現象です。

拡散とごっちゃになってしまいがちですが、現象を理解してから料理に展開できればより美味しいものを作るヒントになるでしょう。

浸透圧を利用して味を濃縮する脱水シートは新しい下ごしらえを可能にする製品です。塩や砂糖の味を食材に移すことなく水分のみを抜くことができるので味の濃縮や食感の改善ができるので使ってみてはいかがでしょうか。

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