煮込めば煮込むほど美味しいわけではない。
はじめに
角煮やシチューなどの煮込み料理は長時間じっくり煮込むほど美味しい気がします。しかし、必要以上に煮込みすぎると硬くなり味も抜け食味が落ちるものです。
煮込み時間を振ったデータというのをあまり見たことがないので、今回は煮込み料理に基礎になるよに煮込み時間を振って食味の変化を追っかけます。
加熱中の肉に起こる変化
肉は加熱することで収縮します。厄介なのは、加熱によって収縮する部分と、加熱を続けることによって軟化する部分が混在している点です。煮込み用の肉として売られているスネ肉なんかは、スジが多いため焼く系の料理に適していません。実際に焼いて食べても硬く、嚙み切れないといったところです。
これは筋に含まれるコラーゲンが収縮して硬くなったためです。コラーゲンは短時間の加熱で収縮しますが、長時間加熱すると徐々に軟化して柔らかくなります。そのためスネ肉や筋の多い部分は煮込むと美味しいと言われています。
一方でコラーゲンの少ない筋肉質のアクチンやミオシンといった赤身のタンパク質は、加熱し続けても軟化しません。徐々に硬くなり、最後は味が抜け、パサパサした食感になります。
以上のことから、加熱調理には、コラーゲンが適度に軟化する時間の加熱が必須であり、赤身肉がパサつかない適度な加熱時間に調理時間を抑える必要があると考えられます。
これは難しい方法で確認する必要はなく、100℃付近で適当な時間加熱して食味の変化を追っかければ加熱時間の目安になります。
試験方法
肩ロースのブロックを100℃近くで保持します。適当な時間でサンプリングして食味を確認していきます。
何も添加せず、弱く沸騰する状態(100℃くらい)で保持します。沸騰してから10分、20分、40分、80分、160分、240分、300分で肉を取り出して食味を確認します。
結果
鍋から取り出した肉を次の画像に示します。
左から、加熱時間は、10分、20分、40分、80分、160分、240分、300分です。指で軽く押してどのくらい柔らかくなったか可視化します。
まず、硬さから。加熱時間10-40分までは全体的に硬く、煮込み料理としては不十分です。加熱時間が80分を超えると筋の部分が柔らかくなります。赤みの部分のコラーゲンが軟化して肉がホロホロと呼ばれる状態になるのは240分以上の加熱が必要です。
それから味については、加熱時間でうま味が増すということありませんでした。加熱時間が長くなると、赤身の部分がパサつき、味が抜けます。これが顕著になるのが240分を超えたところからです。300分ではパサつきや味の抜けが目立ってきます。
80分前後の加熱をするとコラーゲンは柔らかくなり、240分を超えるとホロホロの状態へなります。240分以上の加熱は、肉がほどけてホロホロの状態になりますが、これを過ぎると味が抜けたり赤身の部分がパサつき始めるので、加熱時間は300分以内にする、デミグラスソースなどの濃くて肉の味がわかりにくい調理をするといった工夫を合わせて行う必要があると考えられます。
おわりに
肉を煮込む場合、肉が柔らかくなり始めるまでに80分前後の加熱時間が必要です。ホロホロの状態にしたい場合、240分以上の加熱が必要となります。長すぎる加熱時間は肉の味が抜け、赤みがパサついてくるので300分以内にするのが望ましいという結果でした。
今回の結果をもとに煮込む時間を決めるとしたら、角煮のようなある程度肉の形が残っていて欲しい物は160分以内、デミグラスソース系の煮込みであれば300分以内に抑えたほうが良いと考えられます。
牛や豚、部位によっても多少の時間に差はあると思いますが、今回の結果が全くあてにならないという訳ではありません。牛も豚もこれまでの経験上、大差は見られませんでした。ただし、アキレス腱や軟骨は別途検討が必要です。
肉が柔らかくなるという定性的な様子をしっかり数値化したかったんですが、楽でコストをかけずに数字化する方法を思いつかなかったので今回はかなり定性的な話になりました。以上です。
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