低温調理で出て来る赤い肉汁を閉じ込める方法

肉をカットしたときに赤い肉汁が出てくることがあります。料理方法を工夫することで肉汁を閉じ込めることも可能です。

目次

はじめに

低温調理は加熱による肉の脱水を防ぎしっとりやわらかく仕上げる技法の一つです。専用の器具を使用することで再現性が高くかなり美味しいものを作ることができます。

この調理法の欠点のひとつに、調理後、肉をきると肉汁がドバドバ出るというものがあります。赤い肉汁自体は水溶性の赤いタンパク質によるものなので人体に無害です。

しかし、見た目が強烈であまり美味しく見えなかったり、肉汁によってソースが薄まることもあります。

せっかく低温調理したのに肉汁を逃してしまうのも勿体無いので、肉汁を逃さない調理法の検討を行いデータも取れてきたので公開します。

肉汁の正体

問題点に対処するには問題をちゃんと理解しなければなりません。

まず流れ出てくる肉汁になりますが、これは肉に含まれる水分にタンパク質が溶け込んだものになります。

意外かもしれませんが、肉に含まれる成分で最も多いものは水です。重量でおよそ7割程が水分なのでいかに多いかがわかると思います。

低温調理ではタンパク質の収縮が起こらないわけでなく、僅かではありますがゆっくりと収縮が進行します。実際に調理した場合、袋に肉だけいれ加熱しても袋に水分は出てきます。

牛肉を55℃で加熱した場合の経時変化を次の図にしました。縦軸には肉に残っている水分の割合、横軸には55℃で保持した時間を示しています。

低温調理を行うことで10%前後の水分が抜けることがわかります。また、水分が抜けるとは言え通常の調理とは比べ物にならないくらい水分が残ることもわかります。

肉汁を閉じ込める方法の検討

塩や砂糖を使った脱水がありますが、下味のようなものを付けたくないのでこれらを使わない方法を検討しました。主に次の2つです。

1.ピチットシートを使う

ピチットシートは半透膜を使い食材の水分だけを吸い取ることができるものです。味を変えることなく素材の味を濃縮できるため大変便利です。

2.調理時間を長くする

調理時間を長くすると体感的に肉汁が出にくくなる。体感的に得ていることから、55℃での保持時間を振ってデータを取ってみます。

ピチットシートを使う

ピチットシートで肉を包み一晩置きます。そうすると表面は脱水され赤くキレイな色になります。

55℃で1時間保持するとこうなります。

肉からの水分はほとんど出ていません。これは期待ということでカットします。

カット後の様子がこちら。

うーん、キレイな赤い肉汁が出てきます。

この後、何度かピチットシートを使い、包む時間を調整しましたが、長く接触させておくと表面だけがパサついて微妙な食感になります。ピチットシートは接触している表面のみにしか効果が無いという印象です。

包む時間は6時間前後、長くても12時間、それ以上やると食味を損なう結果となりました。肉汁については、肉内部から出て来るのピチットシートでは対処できません。

水分の多い食材の水分を取り、焼き色を付けたい場合には有効と思われます。

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調理時間を長くする方法

55℃の保持時間を振ってカットしたときに流出する水分を測定します。カットしてから10分後にどれだけ水分が出たのかを測定します。

とりあえず3時間まで振ってみて3点測定した結果が次の図です。縦軸には肉に残っている水分、横軸は保持時間としました。これまでの経験から、出て来る水分量はそんなに多くなく、微細な変化を見なければいけないので縦軸は少し拡大ぎみにしています。

保持時間を長くするとカットしたときに流出する水分が減少する傾向がみられました。数字だと変化量が小さく見えますが、見た目はかなり違いまな板に赤い肉汁がほとんど出ていないことに驚きます。

こちらは3時間保持したものです。

切ってから10分経過していますが肉汁はほとんど出てきていません。また、食味も悪くなく、いわゆる低温調理した肉といった感じでしょうか。

肉汁を閉じ込める方法として、保持する時間を長くするのはリーズナブルな手法と言えます。

肉を休ませて肉汁がでなくなるということも見かけますが、実際には肉汁の出る速度が少し遅くなる程度で温度低下に伴う粘性の低下と推測されます。

切ったときに赤い肉汁を出さないようにするには、55℃で2時間以上保持するといいという結果になりました。

おわりに

肉汁を流出させない方法として有効なのは、低温調理の保持時間を少し長めに設定することです。具体的には55℃の場合2時間以上となります。

それ以外の温度についても同様と思われますが、実際に試したときには追記していこうと思います。

得られた知見をもとにして作った料理はこちらです。

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