うつわを水に浸す方法と米のとぎ汁で煮る方法の2つがあります。どちらも長所短所があるのでどういった現象なのか解説します。また、これらの方法にとらわれない止水剤も紹介します。
はじめに
陶器のうつわは、土を固めて焼いており内部に隙間が残っています。また、釉薬と土の熱収縮率が異なるので冷却時にひびが入ります。従って吸水性があり、磁器に比べて扱いにくいものです。
しかし、ボテッとした土の柔らかさや貫入やシミがいい感じに成長することで自分だけのうつわになります。
購入したうつわを使い始めるときに水に浸したり米のとぎ汁で目止めする方法が紹介されていますが、どちらがいいか結論は出ていません。
今回はデータを交えながらどういったものなのか、どの手法がいいのか解説します。
水に浸す方法
シンプルな手法です。使用前にうつわを水に浸し水を吸わせるだけです。
水を吸わせたうつわは、色や匂いが吸着する陶器の隙間まで水で満たせるので、お茶や汁物などの色の付いた水分がうつわ内部に入り込むのを防止できます。
カラカラの高野豆腐はたっぷり水分を吸うけど、普通の豆腐は水分で満たされているので味がなかなか染み込まないイメージでしょうか。
では、どの程度の時間、水を吸わせる必要があるのか。
実際にうつわを水に浸して給水する量を測定してみました。萩焼の茶碗に水を入れたときの経時変化になります。
縦軸は器が吸った水の量、横軸は水に浸した時間です。
浸漬初期に多くの水を吸い次第に吸う量が減っていくことがわかります。これはうつわの内部にある隙間が次第に水で埋まっていくと言えます。
だいたい5分も水につければ内部の隙間は水で満たされます。従って料理を盛り付けるときは5分くらい水につけてから盛り付けると色や匂いが移るのを防ぐことができます。
ただし、長時間そのままにしておくと、うつわの吸った水分に色が拡散するので注意が必要です。
この方法のデメリットは毎回使用する前に水を吸わせる必要があるところでしょうか。
米のとぎ汁で煮る方法
とぎ汁に含まれる炭水化物で隙間を埋めるというものです。
伊賀焼素地で目止めを行った文献値では、90%程吸水を抑えられると報告されています。
隙間の多い陶器に置いては絶大な効果が得られますが、米のとぎ汁や片栗粉、小麦粉などは炭水化物でカビなどの栄養分となります。
そのため、陶器内部でカビが増殖する恐れがあります。一度カビが生えてしまい内部で着色がおきた場合は手の施しようがありません。
漂白剤を用いても隙間の奥にまで薬剤が届かずに脱色できない恐れがあります。
色移りによるシミ、匂い移りを防ぐために処理したのにカビが入るのは本末転倒になってしまいます。
米のとぎ汁や炭水化物を用いた目止めは、水漏れのあるうつわを目止めする手段にとどめておくくらいが良いのかと思います。
その他の方法
陶芸用の止水剤が販売されています。
成分はラベルから次のように読み取れます。
シラン系混合物水溶液 アルカリ系水溶液pH11
具体的な物質名は記載されていませんが、計算化合物のアルコキシシランの何かかと思われます。シリコン樹脂の親戚のようなもので人体には無害です。
これを塗布すると隙間を埋めるとともに撥水効果が得られるので目止めやシミ、色、匂い移りに対して絶大な効果が得られます。
また、微生物の栄養となる成分でないため、カビの増殖を心配しなくて済みます。
うつわに貫入が入るのを防ぎ、そのまま使いたい場合には大変有効な前処理と考えられます。
おわりに
陶器はゆっくり成長するのを楽しむものです。
使う前に5分程度水に浸すことで色移りや匂い移りを防ぐことができます。
この方法であれば陶器をゆっくり成長させて長く楽しむ手法なので貫入やシミの移ろいを楽しめます。
また、水に浸したうつわは水を吸ってキラキラして大変美しいものです。
とぎ汁で煮るというのは、水漏れがあるものに対して行うもので、普段使いは水に浸す方法が一番良いのかと思います。
貫入やシミをより防ぎたい場合は止水剤の使用をおすすめします。陶器の隙間に入り込むことと表面が疎水性になることでさらに汚れにくくなるかと思います。
参考資料
三重県工業研究所 研究報告, No.37(2013), 92-95
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