肉汁はどこからきてどこへ行くのか

焼き色を付けて肉汁を閉じ込めるっていうのはどういうことなのか、理系の視点で解説します。

目次

はじめに

お肉を美味しく焼く方法などで解説するときに、焼き色をつけると肉汁を閉じ込める等の解説を見かけます。

ふむふむ、なるほどね。さっすが、著名な料理研究家の方はしっかりした説明だな、と納得していませんか。

都市伝説のように語り継がれていますが、実際はちょっと違いっていてちゃんと勉強したい、知りたい場合には不十分です。

肉汁の由来

肉の成分の7割は水分です。他の3割はタンパク質で構成されおります。生の肉がプルプルなのはタンパク質が水分を抱え込んでいるためです。

タンパク質は加熱すると収縮して抱え込んだ水分が分離してしまいます。これが肉汁となるわけです。

イメージとしては水を吸った雑巾を絞るような感じで脱水が進むため、火が通りすぎると硬くパサパサとした感じとなります。

焼き色をつける意味

焼き色を付けただけでは肉汁を閉じ込めることはできません。

そもそもテレビ等でそんな解説してる肉もひっくり返したりした焼き色のついた面から肉汁出てきてますよね。あんまり肉汁閉じ込める効果はありません。

しかし、焼き色をつけることには目的があります。それは香りとコクです。

焼き色は加熱によって肉の表面が茶色や褐色になります。これはアミノ酸と糖による褐変反応でメイラード反応と呼ばれる化学反応に由来します。

メイラード反応は高温で進行し、茶色や褐色になるとともに芳ばしい香りがします。肉を焼いているときにいい匂いがするというのはメイラード反応によるものです。また、メイラード反応によって生成した茶色や褐色の物質はメラノイジンと呼ばれ雑味を増やしコクとなります。

焼き色をつけることは風味や味覚、見た目に寄与すると考えられます。

焼き色が肉汁を閉じ込めない理由

まず、焼き色で肉汁を閉じ込めるために必要な条件を説明します。

水が閉じ込められているということは、水の通れない場所があるということです。身近なものだと食べ物ではありませんが、ビニール袋や鉄、ガラスなど、水を通しませんよね。こういった水を通さない層が肉の表面に形成されていないといけません。

焼き色が膜やコーティングのように水を通さない層を形成していれば肉汁を閉じ込められると考えられます。

それでは肉の表面に注目してみます。

焼き色を付けた肉表面にはメイラード反応によるメラノイジンという褐色の物質が生成しています。

焼き色自体、水を通さないような疎水性の層ではありません。焼いた肉をスープに使う料理では水を足すと茶色くなるのはよく見かける光景です。焼き色のついた肉を皿に盛り付ければ多少焼き色が皿に付着します。これ自体も簡単に洗って落ちます。

また、膜のような形状とは程遠く均一に広がっているわけでもなくムラがあるため、肉汁を閉じ込めるのに十分ではありません。

均一でなく水によく溶けるものが水分を閉じ込めることは不可能です。

加熱した肉表面の変性したタンパク質が水分を抑え込んでるんじゃないかと指摘をうけそうですが、肉の表面は均一ではなく繊維に微妙な隙間があったりしますよね。水分は隙間から漏れ出すので穴の開いた袋と変わらないと言えます。

従って、肉の焼き色に水を閉じ込める効果はありません。

キャラメリゼによる抑止効果

肉汁を逃さない方法の一つとしてキャラメリゼをあげる方がいます。

砂糖を表面につけて焼くことでカラメル化した層を表面に作るテクニックです。

しかし、カラメル自体が水溶性であること、内部からあふれてきた肉汁を閉じ込められたとしてもカラメルの層との間に溜まってしまうことから、肉汁を閉じ込めると言えるかは微妙です。

肉汁を閉じ込めるテクニック

主に二つあります。下処理をする方法と加熱を工夫する方法です。

ひとつめの下処理する方法は、塩水に漬けるといったものになります。塩によってタンパク質の収縮が弱まり、加熱しても水分が残るためしっとりするというものです。

ふたつめは加熱方法を工夫するものです。近年話題の低温調理は器具をそろえれば再現性が高く調理可能です。

おわりに

肉汁を閉じこめるテクニックは色々な手法が考案されています。

その説明で焼き色をつけて肉汁を閉じ込めると説明されると、なんとなく美味しそうで説得力があるため、今では神話のように語り継がれています。

面と向かって否定するつもりはありませんが、ちゃんと理解したい層へ向けた説明としては不十分でしょう。

というわけで現場からは以上です。

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