継ぎ足しのタレの成分が入れ替わるまでの時間

継ぎ足しを繰り返すと計算上80回程度ですべての物質が入れ替わってしまいます。

目次

はじめに

焼き鳥や鰻といったタレをつける料理店では、創業来継ぎ足して使っていることを推している店があります。食材をタレにつけるときに食材からタレに旨味が移り熟成されることで美味しいタレに仕上がっていくのでしょう。

ここで素朴な疑問が生じるわけですが、例えば創業100年継ぎ足しているタレがあったとして100年前の物質は残っているのか、という疑問です。

単純に計算してみれば答えは出るので今回はサクッと計算していきます。

タレ分子が完全に入れ替わるまでの時間

初期条件は次のとおりとします。

タレは残量が50%になったら継ぎ足す
タレという物質と仮定(水や塩といった個別の物質を加味しない)
継ぎ足すと完全に混ざる
分子量の初期値は20molとする
分子数は1mol=6.02*10^23個とする

視覚的にわかってもらうためエクセルに計算してもらいます。結果がこちら。

縦軸は初期分子の残量、横軸は継ぎ足した回数です。縦軸を普通のスケールにすると、小さい値が潰れて見えなくなってしまうので対数表記とします。E+数字は10の何乗であるか意味しています。例えばE+3だったら10^3(10×10×10=1000)です。

グラフより、単純に4回前後の継ぎ足しで一桁下がります。80回の継ぎ足しをすると初期の分子は二桁個まで希釈され、80数回で1個以下となります。

したがって、毎日半分使って継ぎ足していれば3ヶ月弱で入れ替わってしまうということです。継ぎ足しの間隔が週に1回なら1年半といった具合でしょうか。いずれにせよ、何十年も継ぎ足しているといっても初期のものはとっくに残っていないということがわかります。

秘伝のタレができるまで最低限必要な時間

タレが美味しくなる要因の一つに、食材から旨味が移ることが考えられます。旨味がタレに蓄積する一方で、日々タレが消費されるので減り続けます。供給と消費がどこかでイコールになるのでそれを求めます。

先程と同様に食材からタレに加わる旨味を適当に仮定して半量が希釈されるというのをエクセルで可視化します。

図の縦軸のタレに入った肉からの旨味成分の分子数を表しています。横軸は継ぎ足し回数です。10回程度継ぎ足しをすれば線は寝てくるので食材由来の旨味成分の蓄積がなくなるという結果です。初期の値をいじってもサチるまでの時間は大きく変わらなかったので、こんなもんなんでしょう。たぶん。

これからお店を初めて継ぎ足しのタレを熟成させる場合、最低でも10回程度の継ぎ足しをすれば食材由来の旨味は何十年継ぎ足しているものとかわらないという結果になります。

ただし、長期間の熟成による味覚成分の変化については別途必要です。例えばメイラード反応によるコクの素になるようなメラノイジンは生成に温度が関係するので保管するコンディションが重要といえます。しかし、生成するコクと消費される量を考えると、前述したような食材由来の旨味とよく似た結果になると思われます。

おわりに

創業来継ぎ足してきた秘伝のタレは80回程度継ぎ足すとほとんどが入れ替わってしまいます。何十年もやっている老舗の場合、創業時の調味料のかけらが少しでも残っているのかもという期待をしてしまいますが、とうの昔に消費され入れ替わってしまい残っておりません。

秘伝の継ぎ足しのタレというのは、創業来から変わらない味を提供しているという意味なら納得できるのではないでしょうか。

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