はじめに
料理に使う水について気にかけたことはありますでしょうか。
例えば軟水はお茶や出汁をとると言った抽出に向き、硬水は肉を使った煮込み料理やスープに向くなんて言われます。水の硬度によって使い分けると料理が美味しくなる等々解説されることがあります。
じゃあ実際美味しくなるのか、というのを確認してみましょう。今回は硬度を振ってスープの味を確かめてみるという話です。
硬度が影響する料理
水に様々な不純物が溶けています。大気中のガス、塩類、シリカ等々、多種多様な物質が溶けています。そのなかでも硬度よ呼ばれる成分に注目します。
硬度はマグネシウムとカルシウムのことをさし、水溶液中では電子を2個失った状態の+イオンとして存在しています。電子を2個失っているので二価の陽イオンなんて言ったりします。
化学では、こういった電子の多い状態や少ない状態程、他の物質と反応しやすかったりします。また、マグネシウムやカルシウムは陰イオンと強力に結びつくため、溶けない形態にして除去しやすいという側面もあります。
これらの性質を利用した料理がにがりを使ったほうれん草のお浸しです。
二価の陰イオンのシュウ酸とにがりに含まれる二価の陽イオンのマグネシウムを結合させてえぐみを消してしまうという話です。詳細は記事を見ていただけたらと思います。
他にもシュウ酸の多いお茶なんかでも効果が期待できますが、どうなんでしょうね。
植物事態はアクとしてシュウ酸を含むのが多いので調理に硬水を用いることに合理性を感じます。
では、肉はどうでしょうか。肉にはシュウ酸みたいな目に見えて反応しそうなものはなさそうです。しかし、硬度によってタンパク質の塩析や塩溶と呼ばれる現象は期待できます。どちらも電気的な反発を強めたり弱めたりして水から析出させたり溶解するものなので、価数の多い硬度は効果も大きいと思われます。
塩析によってアクを除去出来たり、塩溶でうま味が増すといった効果を確認してみましょう。
試験
〇材料
- 水道水
- ひき肉
- 塩
- 乳酸カルシウム
塩化カルシウムでもよかったんだけど、苦みになるのでほぼ無味の乳酸カルシウムとする。
〇試験方法
- 模擬スープは、水100mL、ひき肉10g、塩0.5gとする
- 乳酸カルシウムは0.05、0.1、0.5、1gで振る
- ブランクを含めた5検体をオーブンで95℃30分加熱
- 冷めたら味見
全体図。右下から、ブランク、0.05g、右上にうつり0.1g、0.5g、1.0gです。
見た目に違いがあるように見えません。さてどうしたものか。
結果
結果は次表にまとめます。
添加量 (硬度) | 見た目 | 総評 |
ブランク (約50) | 肉から出たうま味と塩味が美味しい。ちょっと尖った味。 スープに濁りなし。 | |
0.05g (約280) | ブランクに比べ若干味が薄くまろやか。 スープに濁りなし。 | |
0.1g (約500) | 0.05gに比べ更にまろやかな味。ちょっと苦みが出てくる。 スープに濁りなし。 | |
0.5g (約2300) | 苦みが出てきて微妙。 スープに濁りなし。 | |
1g (約4600) | 不味くて飲めません。 スープに濁りなし。 |
乳酸カルシウムがちょっと加わると味が丸くなります。ブランクは水道水で硬度は50くらいの軟水ではありますが結構差が出たなという印象。
乳酸カルシウムを入れすぎると不味くてのめたもんじゃないという結果でした。
見た目についてはどれも同じで肉眼では差がわかりませんでした。ちゃんとした濁度系とか使ったらわかるのかもしれませんが、家庭の限界です。
一番美味しかったのは添加量0.05g、硬度でいうと280程度くらの水でした。この硬度前後の水で肉料理を作れば美味しくなると考えられます。
おわりに
肉を煮る水にカルシウムイオンを添加すると味がまろやかになることがわかりました。最も美味しかった硬度は、硬度300前後の水です。
味についての知見は得られましたが、塩析や塩溶については微妙だったので追試をするなり文献調査するなりして新しい知見が得られたら加筆していこうと思います。
という訳で今日はこの辺で。
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